水泳をダイエット時の運動方法として取り入れる人が増えてきました。
考えられる理由としては、浮力があるおかげで膝に負担がかかりにくいから、全身運動なので効率的にカロリーを消費できるからなどいろいろあります。
でも、本当はどれくらいカロリーが消費されているのか、実際のところはわかりません。
そこで、今回は、水泳をした時の消費カロリーについて考えていきたいと思います。
一般的なカロリー計算方法
一般的に、運動をした時の消費カロリーは、METsという指標を用いて計算されます。
つまり、以下のような計算式で求めることができるのです。
消費カロリー(kcal)=METs×運動時間(時間)×体重(kg)・・・①
上の表を活用して、例を挙げてみると、体重60kgの人が、楽~ほどほどの労力でクロールを30分間泳いだとすると、174(kcal)が消費されることになります。
計算式は以下のようになります。
5.8(METs)×60(kg)×0.5(時間)=174(kcal)・・・②
ただ、当たり前ですが泳ぎ慣れている人と泳ぎ慣れていない人で、消費カロリーが同じくらいだとは到底思えません。
上手に泳げて普通に泳いでもスピードが出てしまうような人は、泳ぎ慣れているので消費カロリーは少ないと考えられます。
逆に習い始めの人であれば、スピードはゆっくりでも、たくさん体を動かしているので、消費カロリーは多いでしょう。
では、実際にどのくらいの差があるのでしょうか。
また、正しく消費カロリーを求めるにはどのようにすればよいのでしょうか。
そもそも、METsとは何なのか
厚生労働省によると、
METsとは、運動の強度を表す単位で、安静時を「1」としたときと比較して、何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を表したもの
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html
という風に説明がされています。
わかりにくいですね。
もっと、簡潔に言うと、安静時の酸素摂取量を「1」とした時、運動時に何倍の酸素を摂取しているのかというのを表したのが、METsである、という風に言い換えることができます。
式で表すと以下のようになります。
METs=運動時酸素摂取量( ml/kg/min ) / 安静時酸素摂取量(ml/kg/min)・・・③
安静時酸素摂取量は実験により、3.5(ml/kg/min)で計算して問題はないと考えられています。
一方で、運動時酸素摂取量に関しては、運動習慣やその運動の練度によって有意に差があることが分かっています。
つまり、正しい消費カロリーを把握するためには、正しく運動時酸素摂取量を把握する必要があるのです。
運動時酸素摂取量は求められるのか?
酸素摂取量を適切に計測するためには大掛かりな機械が必要です。
大きいうえに高価であるため、運動時酸素摂取量は簡単に計測することはできません。
そこで、間接的に運動時酸素摂取量を求めることはできないかということを考えました。
METsのほかに運動強度を表す単位があれば、それに使用されている指標と酸素摂取量との関係を導くことができると考えられます。
その関係から、間接的に運動時酸素摂取量を求めることができると考えたのです。
運動強度の単位
運動強度の単位はMETsのほかにもいくつか存在します。
代表的なもので言うと、%VO2max (最大酸素摂取量相対値)や%HRR (予備心拍数相対値)があります。
タイムを競うような競技を突き詰めていくと、練習の強度をどのくらいにするべきか、という話題にぶつかります。
%VO2maxや%HRRはそこによく出てくる値です。
%VO2maxとは
最大酸素摂取量に対する相対値です。
運動時のエネルギーを生成する際に、酸素を使用します。
運動強度によって、必要なエネルギーの量が変化するので、必要な酸素の量も変化していきます。
しかし、どれだけでも酸素を取り込めるわけではなく、ある一定程度まで上昇すると、変化しなくなります。
この時の酸素を取り込む量が、最大酸素摂取量(VO2max)です。
この時に、人間はフルパワーの力を出していると言えます。
(トレーニングによって最大値を上げていくことができます。)
%VO2maxは以下のように求められます。
%VO2max=運動時酸素摂取量 / VO2max・・・④
そして、研究の結果、運動強度と最大酸素摂取量に対する酸素摂取量の割合は、最大の運動強度に対する現在の運動強度の割合と同じ値になることが分かったのです。
運動強度(%)=運動時酸素摂取量 / 最大酸素摂取量・・・⑤
つまり、全力の50%の力で運動しているとき、酸素の摂取量も最大酸素摂取量の50%になるということです。
%HRRとは
HRRとはHeart Rate Reserveの略で、予備心拍数と日本語訳されます。
心拍数が上がるのは、様々な理由がありますが、運動時に上がる理由は、体に酸素を一刻も早く運ぶためです。
運動時に酸素が必要なのは理解していると思いますが、いくら酸素を吸っても体に運ばれなければ意味がありません。
そこで、心拍数は早くなるのです。
最大心拍数から安静時心拍数を引いたものが予備心拍数です。
HRR=最大心拍数(220-年齢)-安静時心拍数・・・⑥
また、%HRRは以下のように求められます。
%HRR=(運動時心拍数-安静時心拍数) / HRR・・・⑦
最大心拍数とは、人間の心臓が出すことのできる最高の心拍数です。
滅多なことでは最大になることはありません。
400m走のアスリートがレース直後に記録するくらいです。
そして、研究の結果、%HRRと%VO2maxは同じ値になることが分かったのです。
%HRR=%VO2max=運動強度(%)=運動時酸素摂取量 / 最大酸素摂取量・・・⑧
運動時酸素摂取量の求め方
以上のことから、間接的に運動時酸素摂取量について求めてみます。
⑧の式から、運動時酸素摂取量は以下のように求められられるとわかります。
運動時酸素摂取量=%HRR×最大酸素摂取量・・・⑨
これを③の式に代入します。
すると、以下のようになります。
METs=%HRR×最大酸素摂取量 / 安静時酸素摂取量・・・⑩
安静時酸素摂取量は、3.5(ml/kg/min)で計算して問題ない、ということを先ほど書きましたので、最大酸素摂取量が分かれば、あとは心拍数を運動中に測るだけで、METsが計算できることになります。
最大酸素摂取量に関しては、様々な求め方があるようですが、今回は心拍数から求められる方法にを紹介します。
最大酸素摂取量=最大心拍数(220-年齢) / 安静時心拍数×15.3・・・⑪
⑩と⑪を合わせて考えると、以下のような計算式が出来上がります。
METs=%HRR×最大心拍数 / 安静時心拍数×4.37・・・⑫
以上の式から、METsを計算する前に知っておかなければならないのは、年齢(最大心拍数を求めるため)、安静時心拍数のみであることが分かりました。
METsの計算例
求められた計算式を使用して、実際に計算を行ってみます。
条件としては、30歳男性、体重60㎏、安静時心拍数60であるとし、運動時の心拍数が120になったとします。
年齢から、最大心拍数は220-30=190となります。
また、%HRRは(120-60) / (190-60)=0.46…となります。
よって、この時のMETsは0.46×180 / 60×4.37≒6.03となります。
心拍数120というと、少しスピードを出しているくらいのかんじであるので、表の数字と見比べてみても、「ゆっくり」と「スピードを出して」の間くらいの数字になっているので、妥当な数字なのではないかと考えられます。
METsの計算方法まとめ
心拍数からMETsを求める方法について計算してみました。
厚生労働省が出しているようなものはあくまでも目安なので、個人にあったものを計算する方法について解説しました。
数字がたくさん出てきたので、わかりにくかったと思う人もいたかもしれませんが、結局は運動時の心拍数が分かればいいというだけなので、ぜひ使ってみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
追記:運動時心拍数の求め方
手首や首筋で、脈が取れるところを探します。
見つかったら、10秒間の脈を計測してください。
プールには秒針が動く時計が設置してあるはずなので、それを参考にしてください。
10秒間で計測した脈を6倍してください。
それがあなたの心拍数です。
例えば、10秒間で20回の脈拍があったら、心拍数は20×6=120です。
コメント
記事には、
【最大心拍数は220-30=180となります。
また、%HRRは(120-60) / (180-60)=0.5となります。
よって、この時のMETsは0.5×180 / 60×4.37=6.55となります。】
とありますが、220-30=190ですし、
最後の0.5×180 / 60×4.37=6.55ではなく、0.343…です。
ご指摘いただきありがとうございます。
220-30=190
の部分については修正し、再計算いたしました。
一方、二つ目に指摘いただいた部分については、4.37は分子に来ますので、計算としては合っております。
こちらのコラムに質問がございます。
運動時心拍数が分かればMETsが導出できるとのことですが、例えば、
年齢:20歳
安静時心拍数:80回/min
の方が心拍数が90回/minまで上がる運動をしたとすると、大体0.91METsになるかと思います。(この計算が間違っていたらすみません)
安静時を1METsとしているので、運動時が安静時のMETs(運動強度)を下回るのはおかしいのではと感じたのですがいかがでしょうか。
参考文献などありましたら教えていただけると幸いです。
返信が遅れてしまい申し訳ありません。
また、ご質問・ご指摘いただきありがとうございます。
実際に私の方でも計算してみた結果、
この記事上に載っている計算式では、「提示いただいた条件でMETsが1を下回ってしまう」ということが分かりました。
この原因として考えられるのはただ一つです。
今回の記事における運動強度の前提が「中強度以上の運動を対象にしていたこと」です。
この分野にある程度知見があるかと思いますので、詳しい説明は割愛しますが、
現状世の中にある酸素摂取量などを求める計算式はある程度の前提を持ったうえで確立されています。
というのも、すべての状態に当てはまるような計算式を作れるほど研究が進み切っていないからです。
今回使用した値についても、カルボーネン法をはじめとする「中強度以上の運動」を対象にした計算式で議論を進めています。
また、最終的に導き出した計算式についても、学術的正確性よりも「運動時にパッと計算できること」を主眼に置いて
なるべく簡素になるように前提を取捨しているということもございます。
(学術的なMETsと心拍数の関係式が世の中に存在しないのは、このような理由からだとも考えられます)
結果的に低強度の運動時において、不適切な結果になるということを気が付けなかったのは申し訳ないと思っております。
ご指摘いただきましたので、記事トップに「中強度以上の運動を対象にしている」旨を追記いたしました。
以上、よろしくお願いいたします、